上皮成長因子によるアポトーシス防御における転写因子活性化蛋白1(AP1)の役割

ヒト胃腺癌細胞株TMK-1のEGFの生存シグナルについて検討した. TMK-1細胞をadriamycin(ADR)で処理すると,ミトコンドリアからのチトクロームcの放出やカスパーゼ9の活性化などアポトーシスとそれに関連した反応が起こった. しかし、EGF 処理は ADR によるアポトーシスを大幅に抑制し、これらの反応も抑制した。 我々は以前、ヒト上皮細胞株 MKN74 において、肝細胞増殖因子が phosphatidylinositol-3′-OH kinase (PtdIns3-K) /Akt シグナル経路の活性化を引き起こすことにより ADR 誘発アポトーシスに対する防御シグナルを伝達することを報告した。 しかし、TMK-1細胞では、PtdIns3-K/AktシグナルはEGFの抗アポトーシス作用を媒介しなかった。 EGF は Bcl-2 ファミリーのメンバーである抗アポトーシス蛋白質 Bcl-X(L) の発現を増加させたが、他の抗 (Bcl-2) あるいはプロアポトーシス蛋白質 (Bad と Bax) の発現を増加させなかった。 bcl-X(L)遺伝子の転写を制御することが知られている活性化蛋白質1(AP1)の構成要素であるc-Fosとc-Junの発現がEGFに応答して増加した。 MAPキナーゼの阻害剤であるPD98059で細胞を前処理すると、EGFによるc-Fosとc-Junの発現、AP1のDNA結合、Bcl-X(L)発現、そしてADR誘発アポトーシスに対する抵抗性が阻害されたことから、EGFはAP1をMAPキナーゼ信号経路で活性化するように抗アポトーシス信号を伝達したと推測された。 c-Junドミナントネガティブ変異体であるTAM67を安定的にトランスフェクトしたTMK-1細胞は、EGFによるBcl-X(L)発現やADR誘発アポトーシスに対する抵抗性は示さなかった。 これらの結果は、AP1を介したBcl-X(L)発現のアップレギュレーションが、ADR誘発アポトーシスに対するTMK-1細胞の保護に重要であることを示唆している。